恵光寺 和尚の法話

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恵光寺の宗旨は浄土宗西山禅林寺派で、阿弥陀さまのお慈悲を感謝し、その喜びを社会奉仕につないでいく、そういう「生き方」をめざすお寺です。
現代の悩み多き時代にあって、人々とともに生きるお寺をめざして活動しています。

 

■第211話:2026年1月

「生きる」と「生活する」とのちがい

新年になりました。ひとつ歳をとったわけですが、その歳をとった分、自分の人生をより深く見るようになるといいのに、と思います。
現代の日本を代表する詩人の谷川俊太郎さん。一昨年の11月に93歳で亡くなられましたが,子どもから大人、老人に至るまで、みんなの心に響く詩をとてもたくさん残してくださっています。国民的詩人とよばれる所以です。
この谷川さんがこんなことを言っておられます。(便宜上、(1)、(2)と数字を当てていますが、これは私が書き足したことで原文にはありません。)

《私たちの生き方》に二つあります。それは「生活すること」と「生きること」。
(1)「生活すること」とは、社会との関係で、給料をもらったり、人とつきあったりすること
(2)「生きること」とは、人間も哺乳類の一つとして、命をもった存在として、宇宙の中で生きるということ。
私は詩を書くとき、この『二重性』を見極めて生きることが大事 だと思っています。

いかがですか。この谷川さんの詩を書くときの姿勢。
この谷川さんの視点は、詩人の谷川さんひとりのものだけではありません。実は、これは現代という社会を生きていくわたしたちにとって、とても大事な示唆を与えてくれています。
いまの世の中、わたしたちは(1)の「生活すること」という生き方がほとんどです。生活は都会型になり、自然との接触がなくなり、お金を儲けて、より便利な生活を追求する毎日です。それに対して(2)の「生きること」とは、私の今あるいのちの何であるか、を感じよう、知ろう、追求しよう、とする生きかたです。
そして、谷川さんはこの(1)と(2)の説明後に、その『二重性』を見極めて生きることが大事、とおっしゃっているのも大事なポイントです。つまり(2)の「大いなる宇宙に生かされている私」を追求していくと、現実の「生活」から外れていきます。それでも追及を止めずにいると、だんだん哲学や宗教の域に深く入ってくことになります。もっと言えば普段の生活を否定して求道者になって、仏教でいう「出家」の生き方にまで高まっていきます。
谷川さんは(1)と(2)の「二重性」を見極めて、その「二つのバランスを考えて生きる」ことが、詩を作るときには大事だ、と言っていますが、これは詩作だけの問題ではありません。私ども、誰にとっても通じる「あるべき生き方」ということができます。
仏教的に言えば「宇宙のあらゆるものの縁によって、今の私が、いま、ここに在る」という厳粛な事実、つまり「縁起」の関係、その事実を喜んで生きる、ということですが、その感性、見方をしっかり深めていくことが大事です。
そのような生き方をしていけば、狭いところに自分自身を追い込むような生活から、少しずつ心が広がり、ほんとうの自分本来のペースで生きていくことができると思うのです。
今年もどうぞ、よろしくお願い申しあげます。 合掌。

岸野亮淳